2012/07/09

浜辺

私は、全身にピアスの穴があいた、パンクなひょろひょろのお兄さんにだまされて、第二の世界、と呼ばれる浜辺に連れてこられた。その場所は、巨大警察署の、地下にある。地下道を進むと、徐々に海の砂が足元を鳴らしはじめ、煙たいモヤのかかった浜辺へ通じていた。
そこは一見すると、ほんとうに、ふつうの景色で、浜辺の様子なのだけど、そこらじゅうにいる人間は、どこか様子がおかしく、麻薬中毒者や、精神病、アルコール依存、あらゆる依存症、の人々が、浜辺におもいおもいの格好でいる。
パンク兄さんは、ラリってる。そして、わたしに教えてくれた。
こうやって、指を振るとね 指先から極彩色のひかりがみえるよ
指先を振ると、その瞬間から、様々なところで極彩色がひかった。

どうにか浜辺をでなくてはと、わたしは車で行き来を許可されて出入りしている人々に紛れて、署内への通路へもぐりこんだ。けれど、そこには、数十人の人々が、ギッシリ壁沿いに横にならんで、こちらを向いて見送るようにしている。その中の痩せたおばさん二人が、私に向かって叫んだ。
あんたを覚えているよ!あんたがはじめてきた日を!自販機の前で話していた言葉を!あんたをわたしは覚えているよ!

わたしは顔がすでにわれていることに、焦りを感じながら、なんとか車にのりこんで、第二の世界と、人々に別れを告げ、その場を去った。
開けていたはずのまぶたがもう一度瞬きをすると、夜の明けたばかりの、部屋の布団に横たわっていた。